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特集 | 企業・決算 | 2026年10月31日 22:25

アンソロピックってどんな会社? AIの危なさを訴えた人たちの会社、上場を申請

AIの危なさを、だれよりも強く訴えてきた人たちが作ったAIの会社がある。AI「Claude(クロード)」を開発する米アンソロピックだ。同社は米国時間10月26日(月)、ナスダックへの上場を目指す登録届出書(S-1)を米証券取引委員会(SEC)に公開で提出した。2026年1〜6月の売上は前年同期の約14倍に伸びた一方、純損失は807億ドル(約12.7兆円)にのぼる。どんな人たちが作り、何をしている会社なのか、そして「赤字13兆円」の正体と5種類の株の仕組みまでを、上場の書類を中心にまとめた。

動画:テレ東BIZ ダイジェスト「アンソロピック IPOに向け目論見書を提出 ナスダック上場目指す」(2026年10月27日) YouTube で見る

アンソロピックは2021年1月、米オープンAIを辞めた7人が共同で設立した。上場の書類に名前がある共同創業者は、CEOのダリオ・アモデイ氏、妹で社長・取締役会議長のダニエラ・アモデイ氏、トム・ブラウン氏、ジャック・クラーク氏、ジャレッド・カプラン氏、サム・マッキャンドリッシュ氏、クリストファー・オラー氏の7人だ。ダリオ氏は2020年12月までオープンAIで研究担当の副社長などを、ダニエラ氏は安全・政策担当の副社長などを務めていた。辞めた理由は、当時「方向性の違い」と報じられた。会社は米デラウェア州の公益法人(PBC、公益の目的も持つ株式会社)で、「人類の長期的な利益のための、先進的なAIの責任ある開発と維持」を目的に掲げる。上場の書類のリスクの欄にも、十分に進んだAIは、適切な安全策がなければ人類に破滅的な、存亡にかかわるリスクをもたらしうるという懸念が社内外から出ていること、破滅的なAIの事故の損害を保険でまかなえないおそれがあることを書いている。会社が破滅を予想しているのではなく、事業のリスクとしての説明だ。AIの危なさを正面から語る人たちが、自らAIを作り、売っている。

CEOのダリオ・アモデイ氏は1983年生まれで、サンフランシスコで育った。スタンフォード大学で物理学を学び、プリンストン大学で生物物理学の博士号を取り、スタンフォード大学医学部で研究した。AIに移ったのはそのあとで、中国のバイドゥで音声認識の研究に加わり、グーグルの研究部門(グーグル・ブレイン)を経て、2016年7月にオープンAIに入った。本人のサイトによると、文章のAI「GPT-2」「GPT-3」の開発を率い、人の評価をもとにAIを学ばせる手法(RLHF)を共同で考え出した。2024年10月には、AIがうまくいったときの未来を描いた文章「Machines of Loving Grace」を、2025年4月には、AIの中身を理解する研究を急ぐべきだとする「The Urgency of Interpretability」を発表しており、期待と警戒の両方を語ってきた。2025年10月29日(水)には来日して高市首相と会談し、アジア太平洋で最初の拠点となる東京オフィスを開き、日本のAIセーフティ・インスティテュート(AISI)と協力の覚書を結んだ。日本法人の代表は東條英俊氏だ。

会社が作るAIが「Claude」だ。2023年3月14日(火)に公開し、文章を書く、資料を読んでまとめる、プログラムを書くといったことができる。使い方の中心は個人よりも企業で、企業が自社のサービスや仕事の仕組みにClaudeを組み込んで使う。いまのモデルにはMythos(Fableを含む)・Opus・Sonnet・Haikuの4つの系統がある(S-1)。成長のけん引役になったのは、2025年2月に試験公開し、5月に正式公開した「Claude Code(クロード・コード)」だ。人の代わりにプログラムを書く道具で、会社の発表では、2026年2月12日(木)時点で年換算の売上が25億ドルを超え、その半分以上が企業の利用だった。上場の書類には、米航空宇宙局(NASA)の技術者がClaude Codeを使って火星探査車パーサヴィアランスの走行を計画した例も載っている。日本では、楽天、野村総合研究所、パナソニックなどが利用企業として会社の発表に名前が出ている。これらは顧客で、アンソロピックの株主ではない。

売上は短い間に大きく伸びた。S-1によると、2026年1〜6月の売上は162億8600万ドルで、前年同期の11億6300万ドルの約14倍、2025年1年分(45億8500万ドル)の約3.5倍にあたる。四半期では、2025年1〜3月期の3億7600万ドルから、2026年4〜6月期は115億5500万ドルになった。稼ぎ方は、水道のように使った量で払ってもらう形が中心だ。1〜6月の売上の80%(130億6400万ドル)は、企業がAIを使った量(トークン)に応じて払う従量課金で、残りの20%(約32億ドル)が定額の契約だった。4〜6月期は営業損益が初めてプラス(9億7400万ドル)になったが、1〜3月期は16億6700万ドルのマイナスで、1〜6月の合計ではまだ6億9300万ドルのマイナスだ。社員は9月末で約5300人(2024年末は約940人)で、社内では「Ants(アリたち)」と呼ばれている。直近12か月の社員1人あたりの売上は660万ドルを超え、年に1000万ドル以上を使う顧客は約250ある。売上の27.8%は米国の外からで、日本だけの数字は書類にない。

アンソロピックの四半期の売上:2025年1〜3月3.8億ドル、4〜6月7.9億ドル、7〜9月13.8億ドル、10〜12月20.4億ドル、2026年1〜3月47.3億ドル、4〜6月115.6億ドル。2026年4〜6月期に営業損益が初めてプラス
四半期の売上は2025年1〜3月期から2026年4〜6月期までで約31倍。7〜9月期は書類にまだない(出典:Anthropic S-1・ヨリビケ作成)(タップで拡大)

企業向けでは先頭を走る。米ベンチャーキャピタルのメンロー・ベンチャーズが2025年11月に米企業の意思決定者を調べた推計では、企業がAIのモデル(API)に払うお金のうちアンソロピックが40%を占め、オープンAIの27%、グーグルの21%を上回った。プログラムを書く用途では54%だった。ただし、メンローはアンソロピックの出資者で、その点は割り引いて見る必要がある。AIを動かす計算の力には巨額のお金がかかる。2026年1〜6月の計算資源・インフラの費用は89億4500万ドルで、2025年1年分(73億2600万ドル)を半年で上回った。計算の力は、アマゾンの半導体「Trainium」、グーグルの「TPU」、エヌビディアとAMDのGPUを1つの資源として使い分け、1社に頼らない。資金を出すのも大手だ。アマゾンの出資は合計約180億ドル(アマゾンの四半期報告書)で、グーグルも出資し、2025年11月18日(火)にはマイクロソフト、エヌビディアとの提携も発表した。6月末の時点で、グーグル・アマゾン・ブロードコムに社債を買ってもらえる、まだ使っていない枠が合わせて770億ドルある(S-1)。資金を集めるたびに評価額は上がり、2025年3月3日(月)のシリーズEの615億ドルから、2026年5月28日(木)のシリーズHでは9650億ドルになった。

最大のライバルは「ChatGPT」のオープンAIだ。ブルームバーグによると、オープンAIは2026年3月31日(火)に1220億ドルの調達を終え、評価額は8520億ドルだった。いまは出資前の評価額1兆2500億ドルで約200億ドルを集める調達を進めていると、英フィナンシャル・タイムズなどが報じている(ヨリビケ10月31日の記事)。グーグルはAI「Gemini」で競う相手でありながら、アンソロピックの出資者でもある。アマゾンもアンソロピックに出資する一方、2026年1〜9月にオープンAIの優先株に500億ドルを出しており(アマゾンの四半期報告書)、両方の株主だ。イーロン・マスク氏のxAIは、2026年2月2日(月)にスペースXが買収した。競争と出資が入り組んでいるのが、いまのAIの世界だ。

では、なぜ1〜6月の純損失は807億4800万ドル(1ドル157.5円で約12.7兆円。日本経済新聞は約13兆円と報じた)にもなったのか。大半は帳簿上の損だ。アマゾンなどは、お金を出す代わりに、あとでアンソロピックの株に替えられる社債(転換社債)などを受け取っている。アンソロピックの価値が上がるほど、この社債などの値打ちも上がり、会社が負う額が増えたとして、会計上は損に数える。S-1によると、転換社債やデリバティブ、SAFE(将来の株を受け取る約束)の時価の変動が1〜6月で723億8800万ドルの損になり、純損失の約9割を占めた。ほかに87億5700万ドルの費用があり、主に2026年にアマゾン・グーグル・ブロードコムと結んだ、社債を買ってもらう契約を時価で計上したものだ。本業のもうけを示す営業損益は6億9300万ドルのマイナスにとどまり、現金と短期の投資は6月末で合わせて1317億ドルある。逆に、お金を出した側では、同じ値上がりが利益になる。アマゾンは4〜6月期に、持っているアンソロピックの優先株の評価を約505億ドル引き上げ(1〜6月では628億ドル)、利益に計上した(アマゾンの四半期報告書)。

2026年1〜6月のアンソロピックの損益の内訳:営業損益−6.9億ドル、転換社債などの時価の変動−723.9億ドル、その他(社債の購入契約の時価など)−87.6億ドル、受取利息+11.1億ドル、純損失−807.5億ドル。アマゾンのアンソロピック優先株の評価益は1〜6月で+628億ドル(うち4〜6月期約505億ドル)
赤字の約9割は帳簿上の損。出資したアマゾンの側では利益に(出典:Anthropic S-1、Amazon 10-Q・ヨリビケ作成)(タップで拡大)

上場しても、だれでも会社の方向を決められるわけではない。株は5種類ある。上場して売り買いされるのはA株で、1株に1票の議決権がある。N株は議決権がなく、主にアマゾンなどの提携先が持ち、第三者に売るとA株に変わる。F株は、創業者7人の会社(Founder LLC)が1株だけ持ち、議決権の50.1%を握るが、配当などのお金の権利はない。T株は、2023年に導入した「長期利益信託(LTBT)」が持つ。お金の利害のない5人の受託者からなり、取締役の過半数を選べるが、日々の経営には関わらない。E株は共同創業者を除く社員向けで、限られた事項だけに投票できる。このため、A株を買う投資家は1株1票を持つものの、議決権の過半は創業者の会社が、取締役の過半数は信託が決める形になる。会社はナスダックの決まりでいう「支配株主のいる会社(controlled company)」にあたる。また、共同創業者7人はそれぞれ、個人の持ち分の80%を慈善に充てると約束し、会社は完全希薄化後の株の5%にあたるN株8億4684万960株を、子会社の公益基金に渡した。

アンソロピックの株は5種類:A株=上場して売り買いされる株・1株1票、N株=議決権なし・主に提携先、F株=創業者7人の会社が1株・議決権の50.1%、T株=長期利益信託が持ち取締役の過半数を選ぶ、E株=社員向け・限られた事項だけ投票
上場して買えるのはA株。議決権の過半は創業者の会社、取締役の過半数は信託が決める(出典:Anthropic S-1・ヨリビケ作成)(タップで拡大)

上場の中身はこうだ。上場先はナスダック・グローバル・セレクト市場で、銘柄コードは「ANT」。社員の呼び名「Ants」に通じる。引受会社は22社で、先頭はゴールドマン・サックス、次がモルガン・スタンレー。日本のみずほとMUFGの名前もある。売り出しには日本での公募も含まれるが、日本の取引所に上場する予定はなく、どの証券会社が扱うかは書類にまだ書かれていない。共同創業者7人は全員、持ち株を売る「売却株主」として名前が載っている(売る株数は空欄)。売り出す株数、値段の幅、調達額、上場時の評価額は、S-1ではまだ空欄だ。ロイターなどは、調達額が最大1000億ドル、評価額が1兆5000億〜2兆ドル、上場は11月中旬と報じているが、会社は日程を公表していない。上場後は、多くの株主が目論見書の日から最長180日、株を売れない(ロックアップ)。この先は、値段の幅と株数を書き足した書類が出るか、書類にまだない7〜9月期の売上で伸びが続いているか、計算の力への支払いがどこまで膨らむかが、数字で確かめられる点になる。

数字で見る

上場の書類(S-1)米国時間10月26日(月)に公開で提出(日本時間22時)。ナスダックに銘柄コード「ANT」で上場を申請(S-1、会社発表)
売上(2026年1〜6月)162億8600万ドル。前年同期(11億6300万ドル)の約14倍。80%は使った分だけ払う従量課金(S-1)
営業損益2026年4〜6月期は9億7400万ドルで初めてプラス。1〜6月の合計は6億9300万ドルのマイナス(S-1)
純損失(2026年1〜6月)807億4800万ドル(約12.7兆円)。うち723億8800万ドルが転換社債などの時価の変動(S-1)
手元の資金(6月末)現金1124億ドル+短期投資193億ドル(S-1)
評価額(非公開の調達)615億ドル(2025年3月、シリーズE)→9650億ドル(2026年5月、シリーズH)(会社発表、CNBC)
社員・顧客約5300人(9月末。2024年末は約940人)。年1000万ドル以上使う顧客は約250(S-1)
株の種類A・N・F・T・Eの5種類。上場するのはA株。議決権の50.1%は創業者7人の会社(S-1)
ヨリビケの見方売上に対する計算資源・インフラの費用は、2025年は約160%(売上の1.6倍)だったが、2026年1〜6月は約55%に下がった。純損失807億ドルのうち89.6%は転換社債などの時価の変動による帳簿上の損で、本業の営業赤字6.9億ドルは純損失の0.9%にすぎない。評価額はシリーズEの615億ドルからシリーズHの9650億ドルへ、約1年3か月で約15.7倍になった(いずれもS-1と会社の発表の数字からヨリビケ計算)。公開された数字の計算で、上場後の株価を示すものではない。

次に見るポイント

  • 値段の幅と売り出す株数を書き足した書類の提出(いまのS-1では株数・値段・調達額が空欄)
  • 上場の日程:ロイターは11月中旬と報道。会社は公表していない
  • 書類にまだない7〜9月期の売上と、計算の力への支払いの増え方
  • オープンAIの資金調達(出資前の評価額1兆2500億ドルで約200億ドルとFTが報道)の締めと正式発表
  • アマゾンの四半期報告書:持っているアンソロピックの優先株・社債の評価の動き

関連する動画

動画:CNBC Television「Everything we learned from Anthropic's S-1: Huge losses, massive growth and big risks」(2026年10月26日) YouTube で見る
動画:Bloomberg Originals「Inside the Mind of Anthropic CEO Dario Amodei | The Circuit | Extended Interview」(2026年6月17日) YouTube で見る

出典

白石ひかり ・ 特集 22:25 ・ 2026年10月31日

※情報提供のみを目的としており、投資助言ではありません。投資判断はご自身で。

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