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トランプ氏、ロシア制裁法の適用を発効2日前に停止 ロシア産原油の大口買い手への100%関税は見送り 背景は軽油の高騰、米国の全国平均は1年で69%上がった

米国のトランプ大統領は16日(米東部時間)、9月に成立したロシア制裁法(グラハム法)の制裁と関税の適用を止める大統領令に署名した。法律は18日に発効する予定で、ロシア産の原油や天然ガスを大量に買う国に最大100%の関税を課す内容だった。背景には、イラン情勢とロシアの製油所の被害で軽油が高騰し、11月3日の中間選挙が近づいていることがある。原油と燃料、エネルギー株に関わる話として整理する。

日向かなえ ・ 特集 07:58 ・ 2026年10月19日
動画:BBC News「Donald Trump waives Russia sanctions as row with Zelensky intensifies」(英語) YouTube で見る

ホワイトハウスが16日付で公開した大統領令「リンジー・O・グラハム対ロシア・イラン制裁法の実施」は、同法のうちロシアに関する条項の適用を止めるものだ。具体的には、112条と113条が定める関税、102条・103〜111条・117条の制裁を「外国人・個人に対して適用しない」とし、大統領は同法115条(b)に基づいて「今この適用除外を出すことが米国の国益にかなう」という証明を議会に送ったと記している。米通商代表部(USTR)には、ロシア産の石油・ガスを輸入する国と制裁逃れを助ける国を監視して大統領に報告するよう命じ、適用除外は「大統領か国務長官が、さらなる措置が適切だと判断するまで」続く。以前の大統領令による既存の対ロシア制裁は、そのまま残る。

この法律は、7月に亡くなったリンジー・グラハム上院議員が1年以上かけて進めたもので、法律事務所サリバン・アンド・クロムウェルのまとめによると、上院を8月7日に86対11、下院を9月16日に262対159で通り、9月18日にトランプ氏が署名した。ABCニュースとCBSニュースによると、ロシア製品に最大500%、ロシア産の原油・天然ガスの買い手の上位5か国に最大100%の関税を課し、ロシアの国有銀行と大きな取引をする外国の銀行の制裁、ロシア国債の購入禁止も含んでいた。AFPによると「影の船団」と呼ばれるタンカー群も対象だった。CBSは大口の買い手として中国・インド・トルコを挙げている。適用除外は、議会が法律に入れた「国益の証明」の仕組みを使ったもので、法律の成立から1か月足らずで出たことになる。

なぜ今かは、軽油(ディーゼル)だ。トランプ氏は10月9日、プーチン大統領との電話で「ロシアが米国と世界の市場に軽油を供給する」ことで合意したと自身の投稿で発表し、まず30万トン、11月に50万トン、その後に100万トン、さらに300万トンと、合わせて約480万トンの数字を示した(TIME、ウクライナ通信)。同じ9日、米財務省の外国資産管理局(OFAC)はロシア産軽油の販売・引き渡し・荷降ろし・輸入を認める「一般許可135」を出し、TIMEによると期限は2027年4月7日までだ。米エネルギー情報局(EIA)の週間調査では、10月12日の週の軽油の全国平均は1ガロン6.179ドルで、1年前より2.514ドル高い。レギュラーガソリンは4.331ドルで1年前より1.270ドル高い。ホワイトハウスのロジャース報道官は17日の声明で「今、制裁を発動すれば和平交渉の努力を妨げる」「大統領はいつでも権限を行使できる」と説明した(ABC)。TIMEによると、コロンビア大学のタチアナ・ミトロバ氏は「新しい供給が生まれるわけではなく、卸売価格への効果は短期的で小さい」、ブラウン大学のジェフ・コルガン氏は「世界の価格はあまり動かないが、ロシアには大きな収入になる」と見ている。

どこに効くか。原油そのものは、先週の値上がりの主因がホルムズ海峡であって、ロシアではない。北海ブレントは16日に109.86ドル(前日比3.7%高、週間4.9%高)、WTIは101.41ドルで終えた。適用除外の影響がまず出るのは、ロシア産原油の買い手だ。調査会社Kplerのデータによると、9月のロシア産原油の輸入はインドが日量182万バレル、中国が149万バレルで、Kplerは適用除外を受けて10月のインドの輸入を日量180万〜190万バレルと見込む(ビジネス・スタンダード)。日本はロシア産原油の大口の買い手ではないが、液化天然ガス(LNG)では共同通信によると2024年の輸入の8.6%がロシア産で、すべてサハリン2からだ。法律がそのまま発効していれば天然ガスの買い手も対象になりうる建て付けだったが、適用除外で当面は変わらない。軽油の値段は、米国ではトラック・鉄道・農業の燃料費に直結し、日本では16日の東証で石油・石炭製品が0.60%高、電力・ガスが0.74%安と、原油高の両面が出ていた(フィスコ)。

反応は与野党から出ている。ABCによると、共和党のティリス上院議員は「無責任の域を超えている」、民主党のシューマー院内総務は「プーチンへの最高の誕生日プレゼント」と批判し、コーニン上院議員は「グラハム氏が見たら愕然とするだろう」と述べた。共和党のマコネル、ティリス、コリンズ、コーニンの4氏は13日に軽油の合意の撤回を求めていた。ウクライナのゼレンスキー大統領は17日、Xで「この決定は間違っているように見える。助かるのはロシアだけだ」と投稿した(TIME)。一方、プーチン氏の特使ドミトリエフ氏は「重要で歴史的な瞬間」と歓迎した(CBS)。この先に見るのは、まず20日(米国時間)に出るEIAの週間価格で軽油が下がり始めるか、ロシア産軽油の最初の30万トンがいつ着くか、そして27〜28日のFOMCでエネルギー価格が物価の議論にどう入るかだ。11月3日の中間選挙までは、燃料価格と対ロシア政策が結びついたまま動く。

数字で見る

大統領令の署名10/16(米東部時間)、法律の発効予定日は10/18(ホワイトハウス、CBS)
適用を止めた関税ロシア製品に最大500%、ロシア産原油・ガスの買い手上位5か国に最大100%(ABC、時事)
法律の成立上院 86対11(8/7)、下院 262対159(9/16)、署名 9/18(サリバン・アンド・クロムウェル、TIME)
ロシア産軽油の一般許可OFAC 一般許可135(10/9発行)、期限 2027/4/7(OFAC、TIME)
トランプ氏が示した軽油の供給量30万t → 50万t(11月) → 100万t → 300万t、計約480万t(トランプ氏の投稿、TIME)
米国の軽油 全国平均 10/12の週6.179ドル/ガロン(前年比 +2.514ドル)、ガソリン 4.331ドル(+1.270ドル)(EIA)
ブレント先物 10/16 終値109.86ドル(+3.7%、週間 +4.9%)、WTI 101.41ドル(Investing.com ほか)
ロシア産原油の輸入 9月インド 日量182万バレル、中国 149万バレル(Kpler、ビジネス・スタンダード)
ヨリビケの見方EIAの数字から計算すると、米国の軽油は1年で68.6%(3.665→6.179ドル)上がり、ガソリンの41.5%(3.061→4.331ドル)の1.7倍の上昇率だ。前年との差額も軽油2.514ドルに対しガソリン1.270ドルと、ほぼ2倍になる。ホワイトハウスが「軽油」を理由に挙げたのは、この差が大きいからだと数字からは読める。トランプ氏が示した約480万トンのうち、時期が「すぐに」とされたのは最初の30万トンだけで、残りは投稿のとおり11月以降になる。

次に見るポイント

  • 20日(米国時間)EIAの週間小売価格:軽油6.179ドルが下がり始めるか
  • ロシア産軽油の最初の30万トンの到着時期と、OFAC一般許可135の扱い(期限2027/4/7)
  • 22日(水)資源エネルギー庁の給油所価格調査:日本の軽油・ガソリン
  • 27〜28日 FOMC:エネルギー価格と物価の議論、11月3日の中間選挙
  • 米議会の動き:適用除外への対抗や軽油合意の撤回要求が法案になるか

関連する動画

動画:Al Jazeera English「Trump waives Russia sanctions days before they were due」(英語) YouTube で見る
動画:CNN「Trump waives more Russia sanctions as feud with Zelensky deepens」(英語) YouTube で見る

出典

※情報提供のみを目的としており、投資助言ではありません。投資判断はご自身で。